抜けないリング~先生の薬指~


丹波 依子、と綺麗な黒板のど真ん中に記された白い文字。その右隣に『先生』は小さく、黄色い文字を綴っていく。

文字を書いている振動と共に、『先生』の白衣がゆらゆらと揺れていた。何故だろう。私にはその白衣がひどくスローテンポで揺れているように見える。

例えるなら、スポーツアニメのマッチポイントの決め玉の映像。実際は目にも止まらぬ速さのものが、残像までしっかりと残って見えてしまう。

周りのざわめきも聞こえず、私の耳に入るのは『先生』の手の中のチョークの音のみ。カツカツと響く音のみ。

不思議だ。今までに味わったことのない、不思議な感情。遠足の前日のような気分と、悪夢再来のような気分を入り混ぜた、不可思議な気分。


「初めまして。」

『先生』は白衣を翻して私達に顔を向けた。男性にしてはやや高めの声が耳に飛び込んでくる。


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