抜けないリング~先生の薬指~
白い丹波先生の名前の右隣に、小さく書かれた黄色の人名。黄色だから目立ったのか、それはわからないけれども。
「この学年の数学を担当することになった、羽賀 夏芽です。よろしくな。」
眼鏡の奥に見える瞳は優しく、彼は柔らかい笑みを浮かべていた。
その笑顔は、幼く、無邪気。
とても魅力的であった。
断じて、一目惚れではない。
女子高校で男子を見慣れてないからと言って、そう都合良く話は進まない。
私がこの時彼に感じたものは、もっと不穏なものであった。どこか危険で、直感でヤバいとさえ思ったほど。
極力彼から遠のいた方が良さそうだ。
嫌な予感は当たるもの。数学ならあまり世話になることもないだろう。
一度だけ、白衣の先生と目があった。偶然以外の何物でもない。
私は予感を信じて、なるべく冷たく目を逸らしてみせた。