抜けないリング~先生の薬指~
「伊奈、部活行こうよ。」
学校指定の革の茶色バッグを肩に掛ける。これから新一年生が入るだろうから、練習を怠ると酷い目に遭いそうだ。
先輩も夏には引退。それまでに先輩に追い付くのが私の目標。
部活が好き。部活の仲間が好き。弦楽器が好き。
それは伊奈も、他の面子も一緒。
「でもその前に掃除行かなきゃ。」
…掃除?
いつも破天荒な彼女の口から、掃除の言葉?
「お、お前、いつからそんなよい子ちゃんになった?」
「だって最初くらいは顔出さないとやばいじゃんかぁ。」
珍しく正論を述べている。
座席から考えてみて、私達は同じ一班。今月の掃除場所は視聴覚室。
今日だけね、と二人の中で暗黙の了解が生まれ、早速その場に足を運んだ。