抜けないリング~先生の薬指~
堪忍するか。
私は伊奈と目配せして、そっとげた箱から身を出した。
廊下は掃除や部活に行く生徒で溢れて賑わっている。いつもは私達もこの流れに乗って部活へ行っていたのに。
彼は名簿を見るのに飽きたらしく、胸ポケットにささったペンで一人遊んでいた。
そのせいか、私達が前に立っていても気付く素振りも見せない。
「えっと…」
伊奈に肘でつつかれて、促されるまま声をかけてみた。名前をど忘れしたため、彼女が口パクで一生懸命私に伝えようとしている。
「ひょっとして…ここ掃除の子?」
ペン回しをやめて、幸い彼の方が尋ねてきた。
「あ、はい!えっと、よろしくお願いします。」
これには元気よく返しておこう。