抜けないリング~先生の薬指~


「ああ、席順だな。えぇと、今から名前呼ぶんで、呼ばれた方からどんどん座ってください。」


教壇にプリントの山を降ろして、肩を回しながら、とても軽い調子で彼は言った。

よほど慌てていたのだろうか。次に乱れた白衣を整えて、袖を捲って名前を読み上げる。



無論、呼ばれなくとも席など分かりきっている。


けれども、
「相原 神乃ー。」
と語尾を伸ばして呼ばれることを、不覚にも嬉しいと感じてしまうわけで。


「宇伽 伊奈ー。」

伊奈の名前も語尾が伸びてる。
どうやら彼の癖のようだ。




いかにも日本男児を物語る黒髪は所々跳ねていて、眼鏡の奥の瞳はどこか楽しそう。


可愛い。


自分より年上なのに、可愛いと思ってしまうのだ。


< 34 / 74 >

この作品をシェア

pagetop