抜けないリング~先生の薬指~
「ああ、席順だな。えぇと、今から名前呼ぶんで、呼ばれた方からどんどん座ってください。」
教壇にプリントの山を降ろして、肩を回しながら、とても軽い調子で彼は言った。
よほど慌てていたのだろうか。次に乱れた白衣を整えて、袖を捲って名前を読み上げる。
無論、呼ばれなくとも席など分かりきっている。
けれども、
「相原 神乃ー。」
と語尾を伸ばして呼ばれることを、不覚にも嬉しいと感じてしまうわけで。
「宇伽 伊奈ー。」
伊奈の名前も語尾が伸びてる。
どうやら彼の癖のようだ。
いかにも日本男児を物語る黒髪は所々跳ねていて、眼鏡の奥の瞳はどこか楽しそう。
可愛い。
自分より年上なのに、可愛いと思ってしまうのだ。