抜けないリング~先生の薬指~
23歳、ね。
確かに若いな。
頬杖をついて質疑応答のやり取りを聞いていた。
こういう時間は嫌いではない。授業が潰れるのだから、多少のざわつきも目を瞑ろう。
「奥さんの名前はぁ?」
「あぁ、それは秘密だな。」
「なんで?」
「まあ、妻がそれだけは嫌がってたから。」
「うわー、超ラブラブなんだけどー。」
生徒一同がえらく盛り上がる。お互いの顔を見合わせてきゃっきゃとはしゃいだ。
いや、一同と言ったことを撤回しよう。
私だけは頬杖をついたまま、無表情だったから。
――なっちゃんの奥さんの名前は、今でも知らない。興味がなかったのではなく、なっちゃんの口から聞くのが嫌だったから。なっちゃんに笑いかける自信がなかったから。