抜けないリング~先生の薬指~
先生が私の無表情に気付いたかは知らない。私を見て一瞬、何かを言いたそうな顔をしたのだ。
私は頬杖をやめて先生をじっと見る。
しかし先生はすぐに生徒の質問に捕まり、私から目を逸らした。
私の顔、何かついてた?
確認のため伊奈を見ても、伊奈は何も言わないので、特に目立ったことはしていないのだろう。
良かった、と安心して窓の外を見つめる。
窓の外を見るのは私の癖。
ひょっとしたら、あの人が私を見てくれてるんじゃないか、と期待しつつ見上げる。
そう、あの人。
忘れられない、あの人。
それから頭の中は真っ白になり、質問のやり取りも耳に入らなくなった。
一つだけ言えるのは、あの授業では数学の話に触れていなかったということ。