抜けないリング~先生の薬指~
ずっと名前を覚えられてないのだと思ってて、学級委員なのに存在の薄さを痛感していた矢先だったから。
それに、彼は笑顔で私の名前を呼ぶ。
いつも笑顔だから、私の名前を呼ぶときも笑顔。
幼少期から気に食わなかった名前も、ここでようやく好きになれるかもしれない。
長かったな、十六年も。
「まあ、次の授業も愛しの羽賀先生だけどね。」
愛しの云々はこの際無視。
週三日の数学ももはや苦痛じゃない。準備だって怠らない。
羽賀先生の数学は魔法だ。比喩ではない。魔法そのもの。
あんなに理解しやすい教科が数学だなんて露ほどにも思えない。
計算が解けることがあんなに嬉しいなんて久々の感覚。
生徒一人一人が分かるまで教えてくれる。正に教師の鏡。