抜けないリング~先生の薬指~
そうして迎えた視聴覚室掃除。
階段にモップをかける。
いつもなら『ご苦労様ー』と間延びした声をかけられるのに、今日に限ってはない。
あの白衣の姿は、ない。
変だ。変。ものすごく。
味気ない、なんて感じてしまう。
私、何のために掃除しているの?
いつの間にか掃除の時間が楽しくなったのは何故?
掃除をサボって部活に行くことを躊躇うようになったのはいつから?
答えは喉に刺さった魚の骨のように、飲み込む度にちくちく痛む。
答えはもう出てる。
それを抱いたら、魚の骨では済まなくなる。
下手すれば、
「喉に刺さった、ナイフ、だ。」
痛いだけじゃ、済まなくなる。
経験したことはない。
ただ熱く焼けるような鋭い痛みを伴うのだろう。