抜けないリング~先生の薬指~
指輪に残った先生の体温が段々と冷めていく。私の手には温もりなどない。金属の冷たさが鋭くなっていく。
もし仮に、私がこの手を下に向けたら、一体どうなるのだろう。
指輪は重力に抵抗できない。
この冷たい床に落ちる。
恐らく先生は笑うだろう。
落とすなよー、などと笑う。
床にしゃがんで、拾い上げて、また温もりを閉じ込めて、私の手の上にのせる。
その指輪を触る権利なんて、もうないんだ。
私は先生の腕を引いて、拳を無理矢理開いた。その温かく大きな手のひらに、そっと指輪をのせる。
早く、早く彼の元に返さないと。
焦りが焦りを生む。
私のモラルが顔を出して叫ぶ。
先生は驚いてはいるものの、為すがまま。