抜けないリング~先生の薬指~


階段を上っているのか、下っているのかすらわからないほど混乱して。

ただ走っていた。
何かから逃げ出すように。


実際、何かから逃げていたのかもしれない。

その、なにか。モラル。



認めたくなかった。
本当はもっと前から知ってたんだ。
押し殺さなければならなかったのに。




幸せになんか、なれないのに。
この小さな手中に、胸の中に、収まるはずなんかないのに。


融通の効かない理屈や、常識さえも、この厄介な感情には無意味になる。

今まで私を制したそうしたものが、こういう時に限って許してしまう。




無我夢中で、私はとにかく一人になろうとした。


誰かに会えば、人に打ち明けてしまいそうで怖かった。



それなのに、先生の姿を探していた。


< 59 / 74 >

この作品をシェア

pagetop