抜けないリング~先生の薬指~
階段を上っているのか、下っているのかすらわからないほど混乱して。
ただ走っていた。
何かから逃げ出すように。
実際、何かから逃げていたのかもしれない。
その、なにか。モラル。
認めたくなかった。
本当はもっと前から知ってたんだ。
押し殺さなければならなかったのに。
幸せになんか、なれないのに。
この小さな手中に、胸の中に、収まるはずなんかないのに。
融通の効かない理屈や、常識さえも、この厄介な感情には無意味になる。
今まで私を制したそうしたものが、こういう時に限って許してしまう。
無我夢中で、私はとにかく一人になろうとした。
誰かに会えば、人に打ち明けてしまいそうで怖かった。
それなのに、先生の姿を探していた。