僕とみつばち
ナツミとの約束は8時だった。基本的に待たせるのが好きではないので、意識せずとも早めに約束の場所に向かった。
今までの全ての女の子とは違い、ナツミは「自宅で待っている」とは言わなかった。
実家暮らしというのもある。それに、初回から素性を曝け出すということに、抵抗があるのかもしれない。
ナツミが指定した場所は彼女がよく立ち寄ると言う書店だった。
一階が書籍販売、二階がレンタルフロアという、ごくありふれた形態の書店であったが、この地域にしては規模も大きく、専門書の種類も豊富なのがいい。
僕も度々足を運ぶ場所でもあった。
上手く表現できない高揚した気持ちを抑え、店内にナツミの姿を探した。
何となく、女性ファッション雑誌のコーナーにはいない気がした。
通り過ぎようとした児童書のコーナーに、幼児と並び、頭一つも二つも背の高い…と言っても、大人にしたら小柄な、女性を見つけた。
艶のある、肩まできっちり揃えられた黒髪が、ナツミ、その人だとすぐに分かった。
熱心な様子で絵本に見入っている。