僕とみつばち
そっと、後ろから肩を叩いてみる。
「ナツミ…だよね?」
待ち合わせをしていたというのに、ナツミは声を掛けられたことに驚いてしまった様子で、目を見開いてこちらに振り返った。
「あ…」
しかしすぐに僕だと理解し、僅かな笑みを見せた。
「ごめん、びっくりした?」
「ううん。大丈夫。」
「絵本、見てたんだ?」
「うん、これ。」
ナツミが持っていたのは、僕にも見覚えのある絵本だった。確か…、
「この青虫、欲張りしちゃってお腹壊すんだけど。最後のほら、このページ。」
見開きに鮮やかに描かれた蝶は、僕の幼少の頃の記憶をくすぐった。
思い出せないそれが少しもどかしかった。
「蝶になるんだよね。青虫。こんなに綺麗に。そこが好き。絵も綺麗。裏表紙も。」
雄弁に話すナツミで、正直に言うと絵本にはそれほど興味を持てそうになかったが、また一つ、ナツミの好きなものが分かったなあ、なんて感じていた。