僕とみつばち
ある夜の事だった。
月が綺麗な夜だった。
そもそも、僕は月を綺麗だと思う男だったろうか?
そう思いながら、ワカコと待ち合わせたいつものカフェバーへ車を走らせた。
僕たちはこの隠れ家の様なカフェバーが気に入っていた。
洒落た感じも、意外とリーズナブルなところも。
何より、ほぼ客同士顔を突き合わせることがないというのは、僕にとっては嬉しかった。
若さ故に対人関係で悩んでいた頃で、ストレスの塊と化していたのだ。
食事の最後に、甘いカフェオレを飲むのがワカコの常だった。
いつもと変わらないまったりとした時間。
だと思っていたが、
ふいにワカコが口を開いた。
「わたしたち。」
「え?」
「わたしたちの関係ってなんだろね。」
「……。」
僕も言えずにいたところだ。
恋人と言いたい。
言っても良いのだろうか?
いや、しかし。
ああ、もう!
「恋人、でいいのかな?」
「…こいびと。」
ワカコの感情が読めない。
暫く互いに無言で視線を彷徨わせていたが。
「そうだよね。こいびと。そうだ、こいびと。」
「どうした?」
「ううん。」
物憂げな表情は焦燥感を駆り立てるには十分で。
「…もしかして彼氏とかいる?」
「ちがう。」
僕の胸が警告を鳴らし始めた。
聞くな。
聞くな。