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「それよりさ、私のことまだ1回も夕希って呼んでくれてないよ?呼んでよ~!!」

たしかに言われてみればそう。ずっと、名前を呼ばずに声をかけてただけだった。それに、心の中では瀬和夕希だったし。よく気づいたな。

「あ、ごめん。ゆ…き。」

「ありがとね。」

夕希かぁ。最初は、『何こいつ』って感じだったけど、少しの時間でなんだか心を許してしまいそうになる。彼女の言葉ひとつひとつが魔法みたいだった。

そして、私の心の中の大きな氷がほんの少し、ほんの少しだけど溶け始めているような気がした。

「それより、このクラスの人のこと説明してよ。私まだ愛未のことしか知らないんだよね~!」

と、言って体を乗り出してきた。

「私も名前ぐらいしか知らないよ。あんまり、喋ったこと無いし。」

「名前だけでもOK」

「わかった」

そして、私は席順に名前を教えて行った。そして、ある女子生徒の名前を紹介する番になると、声が出せなかった。そう、彼女の名前を口にしたくなかったんだ。

「…」

「愛未…?どうしたの?」

「あぁ。ごめん。…。実はさ」

私は、彼女にいじめられた。中学校の頃からずっと。ただでさえ、友達の少なかった私にもっと酷い仕打ちをしかけた。ただ一人の友達がいたのに、その子に私の悪気地を言って、私を一人ぼっちにしたんだ。

このことを、夕希に言うか言わないか実際に迷った。転校初日の夕希にこんな暗い話をしていいのかどうか。

「愛未?実は何なの?」

「いや、何でもない」

「本当に?辛いことがあったら、言いたくなった時に私に言いに来てよ。別に、今からでもいいけど~ッ!!」

「じゃぁ、後日にしとく」

「うん、わかった」

夕希は優しかった。言いたくなった時にかぁ。ちょっと、人と変わってるなと思った。
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