レモン

いつもだったら、
木や花の良い香りがする場所だった。

だけど、その時はガソリンの嫌な臭いがした。


周りがほとんど見えていなくて、
私はただ一点を見つめていた。

あの潰された俊司のバイク。


後輪がまだ回ってる・・・
どこからか煙りが立ってる・・・。

そこに居るはずの人が居ない。

ついさっきまで乗っていたはずの人が居ない。


バイクから少し離れた所に救急隊員が2人、
誰かを担架に乗せ上に上げる瞬間だった。

私は目を奪われた・・・
動かした瞬間その人の右手が、
担架からはみ出るように落ちた。


その手は2人お揃いで買った携帯が、
開かれたまましっかりと握られていた。

携帯には私がお守りにあげたストラップが揺れていた。


それは確かに俊司の携帯で、
担架に乗っているのは俊司でしかないと、
突きつけられているようだった・・・。
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