レモン
夕日が水平線まで落ちてきた。
少し冷たくなってきたので、2人は海から上がった。
小柄が鞄からフェイスタオルを取り、
健に渡した。
「ありがとう。」
夕日が逆光になって顔が見えなかった。
「焦らなくて良いから。
小柄が行きたいと思う時に行こう。」
健は小柄をそっと抱きしめた。
なぜか小柄じゃなく、
健の方が泣いていた。
しばらくすると夕日は完全に沈んだ。
くらくなった海を2人は並んで、
砂浜に座りじっと見ていた。
「何が怖いのか分からないの。
でも、足が動かなかった。」
小柄がそっと健の手を握った。
その手にはずっと、
俊司から貰った指輪が光っていた。
「忘れろとは言わない。
ただ、乗り越えて欲しいんだ・・・。」
健がちらっと指輪の方を見た。
それに小柄は気づいたが、
見なかったふりをした。
「健・・・ありがと。」