セピア
・・・何の音?
あまりに長い余韻の後、恐る恐る階段に近づく。今、私がいるのは体育館の2階の大アリーナ。
音が聞こえたのは、1階。普段あまり使うことのない1階で何があったんだろう。
下って、確か剣道場か柔道場?
帰宅部の私には全く縁のない場所。私はおそるおそる下に通じる階段から1階を見下ろしてみた。紺色の剣道着や武具、竹刀が並んでいるのがわかる。
─ドン ドン ドォン
剣道部じゃない・・・。
音がしたのは、剣道場の奥の、柔道場。ここからは見えなくて、階段をゆっくりと降りはじめる。と、人の気配。
衣擦れの音がして、こっちにやってくるのを感じる。黒い頭が・・・見えた。
急いで引き返して口をゆすぐと、後ろを振り向かず体育館を後にする。
私、怪しい!
普段人のいない場所で歯磨き片手に盗み見。自分の行動が恥ずかしくて、急いで教室へと走る。走る。
見られてはいないだろうか。
6組と7組の間にきたところで、やっと体育館を振り返る。
日焼けした背の高い短パンの体育教師が外の階段を登っている。
はっと息を吐く。
あれは何だったか、自分がいた手洗い場を見つめていた。