セピア
「そういえば、あれから体育館行った?」
ふいに聞かれ、ふるふると首を横に振る。
あれから─柔道場からの音を聞いてから、私は昼休み体育館を避けていた。
「なんか怖いし。」
早々にお弁当をたいらげキュッと布で結ぶ。
女子トイレが混むので、早く食べ終えるようにしていた。
「行ってみようか。」
にかっと笑う志織。この笑い方はおもしろいことを考えているときのだ。
「や、やだよ。」
「私も行くから!」
「何もないってば。」
「なら、尚更いいじゃない。」
ねっと笑いかけられて、腕をからめとられて私の負けだ。
「歯ブラシ持った?」
いつもは歯ブラシ探すのに5分はかかるのに、今日に限っては、既に握りしめている。
「・・・持った。」
若干ふてくされて言ったのに、志織は構うことなく私の手つかむと、体育館へと向かった。
「次、数学当たらない?」
「今日は大丈夫。美加が大変そうだったけど。」
「美加ちゃん、数学苦手だもんね。」
ふっと笑って、志織が私の顔をのぞき込む。
「・・・潤と仲良くやってるんだってね。」
「うん。嘘みたいに話せる。」
「じゃあ、ギケンとも話せるんじゃない?」