ミュージック・ラブ3〜愛を奏でるメイフラワー〜
『良いから、良いから』

楓はそう言って、たださっさと目的地を目指して歩いた。

『こ、ここって…』

二人がたどり着いた先を見た敬大は驚いた。

『あたしたちの高校だよ』

楓は笑顔で言った。

そんな楓とは引き換えに、警察に手錠をかけられ連行されたあの日の苦い記憶が、敬大の頭の中によみがえってきた。

敬大は校門の前で足を止めた。

『どうしたの敬大?中入ろうよ』

足を止める敬大に楓は声をかけた。

『ああ…』

敬大は渋々歩き出した。

あの日の冷たい雨…

重く冷たい手錠…

青ざめる教師たちの顔…

軽蔑するような目で見つめていたクラスメイト…

ヒソヒソ話をするやじ馬たち…

校門から校内の敷地を歩く度に、あの日の情景が敬大の脳裏に鮮明に浮かび上がってきた。

敬大は一人あの日のこの場所に戻っていた。


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