ミュージック・ラブ3〜愛を奏でるメイフラワー〜
そして敬大はしばらく考え込んだ。

『昔は平気で“大好き”とか簡単に言えたのに…大人になった今じゃどうしても言えないんだよな…』

そして敬大はもう一度指輪を見つめた。

『思い出したよ、この指輪はあの頃の俺が楓に“婚約指輪”として渡そうとしてて、でも結局恥ずかしくて渡せなかった指輪…』

敬大はおもちゃの指輪をぎゅっと握りしめた。

『今更こんな指輪…遅いよ。今更楓の事が好きだって気付いたって…遅いよ。もっと素直に生きてれば良かったな…』

敬大は春風に舞う桜の花びらに包まれながら、ただ楓の事を思った。

『絶対…絶対幸せになれよ…楓…』

敬大はそう夜空に願った。

楓の結婚前夜…楓と敬大の思いはすれ違いのまま終わろうとしていたのだった。

最後まで伝えられなかった敬大の思いは、行くあてもなくただ溢れ出して夜を切なさで染めていった。

自分の気持ちに素直になっていれば、もっと早く気付く事が出来た恋。

ただ今は、桜のように儚くちりゆくだけ。


< 286 / 354 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop