記憶の破片
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真剣な眼差しを私に向けていたお母さんの瞳がふわっと和らいだ。



「なら、私は何も言わないわ。沙江を応援する」



素直に嬉しかった。


お母さんが反対しなくてよかった。


お母さんが賛成してくれてよかった。


お母さんが応援してくれてよかった。



「頑張る。絶対連れてくるから」



ありがとう、お母さん。


心の中ではそう言いながら、お母さんに決意を伝えた。



「ふふ、楽しみにしてるわ。でも頑張りすぎないでね、沙江が体調を崩したらきっと沖田さんも心配するから」



心配かけてごめんね、お母さん。


心配してくれてありがとう。



「ただいま」



カチャという音が聞こえたあとに響くのはまっすぐで鋭い声。



「お帰りなさい」



お母さんはにっこりと微笑みを浮かべている。



「お帰りなさい、お父さん」



スーツ姿だったけど、その容姿はやっぱり土方さんにそっくりだった。



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