記憶の破片
.



――――――――――
――――――――
――――――



結局見つからなくて。


お母さんたちを心配させるのがいやだから19時にはベンチから立ち上がって家に帰った。



「………沙江はどうしたんだ?」



ソファーにもたれる私の耳にお父さんの声が届く。


仕事から帰ってきたみたい。



「お帰りなさい。…見つからなかったから落ち込んでるんですよ」



残念そうに呟いたお母さんの声に耳を塞ぎたくなった。



「沙江」



ネクタイを緩めながらお父さんが正面に立った。


お母さんはキッチンに行ったみたいで包丁で何かを切る音が聞こえる。



「お帰りなさい、お父さん」



横たわっていたソファーから上体を起こしてお父さんを見上げる。



「ただいま。…見つからなかったみたいだな」



ストレートな言葉に私は俯いた。


なんで気にしていることをズバッと聞いてくるんだろう。



「まぁ1日で見つかるわけがないだろうけどな」



呟かれた言葉に私は生まれて初めてお父さんを睨んだ。


バカにされたような気がして…。



.
< 31 / 98 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop