記憶の破片
.


「……なに?」



「明日、会ってください」



もしかしたら、一緒にいたら少しずつ思い出してくれるかも。



「は?」



「私、片桐沙江です。明日も、ここにいます」



不思議と、この人が沖田さんじゃないっていう考えにはいかなかった。


絶対に、この人が沖田さんだと確信していた。



「無理、見ず知らずの人と会う気ないし」



言葉の端々にとげを感じたけど、服の裾を離せなかった。



「来るまでいます」



漂う空気がおかしかったのか周りの人たちが足を止めて遠巻きに私たちを見ている。


でも今はそんなこと気にしていられない。



「とりあえず、服離せ」



「や、です」



今、離したら次はないかもしれない。



「離せ」



冷たい言葉に胸が苦しくなるけど、離せない。



「明日の11時に、来てください」



「…わかったから、離せ」



そう言われたら離さないわけにもいかなくなって。


渋々、手を離した。



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