記憶の破片
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手を離すなり行ってしまった。


名前も何も聞けなかった。


いつまでもそこにいる理由もなくて、家に帰ることにした。



「ただいまぁ」



玄関から家に声を出すと、お母さんが顔を覗かせた。



「あら、早かったのね」



「うん、なんとなく」



本当はお母さんに沖田さんが見つかったと、早く報告したかったけどできなかった。


きっと自分のことのように喜んでくれる。


でも、あの冷たい声を思い出すと、できなかった。



「あ、今日、大和【やまと】さんが来てくれるからね」



「え、本当?」



大和おじさんはお父さんの親友。


警察官で、お父さんよりも柔らかい雰囲気を醸し出してる人。



「えぇ。沙江が退院したお祝いにって」



「深雪【みゆき】ちゃんも?」



「えぇ。珠子【たまこ】ちゃんもよ」



深雪ちゃんは大和おじさんの10歳年下の奥さん、珠子ちゃんことタマちゃんは5歳の娘さん。


2人ともすっごく可愛い。



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