記憶の破片
.



ベンチでなにも話さない沈黙が続いた。


でも目の前を忙しなく歩いていく大勢の人たちよりも、私たちにはゆっくりとした時間が流れているようにも思えた。



「あの…」



15分ほどの沈黙を破ったのは私。



「…なに」



無視しないでくれた。


それだけと言われればそうだけど、やっぱり嬉しい。



「名前、教えてください」



この人の名前は沖田総司じゃない。


だったらいつまでも心の中でも沖田さんと呼ぶのは失礼だと思うから。



「…浅田 総【あさだ そう】」



あさだ、そう。



「…なんて呼んだらいいですか?」



「別に。好きに呼べば」



つれないなぁ、なんて思いつつ、なんて呼ぼうか頭をフル回転させる。


どう見ても年上なんだよね。


たぶん大学生かな?



.
< 42 / 98 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop