記憶の破片
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総さんが来たのは11時5分前の10時55分だった。



「…いつからここにいるんだ?」



怪訝そうな表情の総さんに私は答えず笑った。


9時からいることは秘密。



「ついさっきです。総さん、来てくれたんですね」



11時よりも早く来てくれた。


私に会いに…。



「…来るって言っただろ」



「はいっ」



忘れないうちにハンカチを返さなきゃと思って、バッグからアイロンをかけたハンカチ
を取り出した。



「ハンカチ、ありがとうございました」



本当は返したくない。


これを返してしまったら、総さんと私を繋ぐものがなくなってしまうから。


でも借りたものはきちんと返さなくちゃいけない。



「うん」



私が差し出したハンカチを総さんは受け取るとショルダーのバッグにしまった。



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