記憶の破片
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総さんのコーヒーはいつの間にか湯気が出なくなっていた。


俯いていて時計を見ていない私はどれくらい話していたのかよくわからない。



「…最初から」



ポツリと沖田さんは話し出した。



「最初から、違和感はあった」



「…え?」



違和感?



「俺の服を握ってきたお前はなんかもう必死な感じで、ほんの少し逆ナン?とか思ったけど、なんとなくそうじゃないって思った」




総さんが話しているのは私たちが初めて会ったときのことだ。


今思えば驚くよね。


知らない女がいきなり服掴んで話し出すんだから。



「お前が俺を知ってる風に話すのも嘘をついてようにも見えなくて、でも俺には身に覚えもないことで…」



そこで一度総さんが言葉を切った。


どうしたんだろうと思い、俯き続けてきた顔を上げた。



「けど…初めて会ったはずのお前に、惹かれた」



ドクンとカラダ全体が心臓になったような気さえした。



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