記憶の破片
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「…そんな自分がいや。私は沖田さんが好きで、沖田さんとも約束したのに…どんどん総さんでいっぱいになっていっちゃって…総さんでいっぱいになればなるほど、沖田さんを裏切ってる気がして…」



瞼を閉じれば、確かに思い出せるのに。


儚く笑う表情も、凛とした真剣な表情も、温かい手も。


なのに…。



「沖田さんを裏切ってる気持ちを持ってるのに、総さんの手にドキドキしたり、頭を撫でてくれたことに胸がぎゅっとなったりして」



口数の少ない総さんが小さく笑うと胸が高鳴って。


電話で話していても、顔が見たくなる。



「…ごめんなさい、総さんを傷つけて…。総さんは沖田さんじゃないのに…」



「…“もし、生まれ変わって、また逢えたら”…」



いきなり呟かれた言葉に私はただ瞬きを繰り返す。



「続きがあったのに、お前が口を挟むから言えなかったってさ」



今の言葉は、誰の言葉?



「…総さん?」



「夢を見た」



真っ直ぐに私を見つめる総さんが今、何を考えてるのかよくわからない。



「…泣いてるお前と、顔色の悪い男」



「…」



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