記憶の破片
.



なんかこの人に子供扱いされるのはすごくいやだ。


理由なんかわかんないけど。


寂しく感じる。



「そういえばまだ名前教えてなかったですね?」



そう問われて素直に頷くとふっと笑った。


なんだろう、笑った顔がすごく儚い。



「僕は新選組一番隊隊長の沖田 総司【おきた そうじ】です」



沖田、総司…さん。


聞いたことはもちろんある。


番組や雑誌で新選組を特集すれば必ず出てくるような有名人物だ。



「あなたの名前は?」



そんなことを考えているとそう尋ねられて。



「…綾です」



また本名とは違う名前を名乗った。


そうしないと沙知さんに矛盾が生まれちゃうから仕方ないけど。


沖田さんには本名を教えたかった。


それから私たちは沖田さんが土方さんに呼び出されるまで他愛のない話をした。


いや、正確には沖田さんが気を遣って話を振ってくれたんだけど。


おかげで不安に頭が覆われることはなかったし、沖田さんには感謝だな。


話し疲れのか気疲れなのか私はまだ日が沈んでそんなに経たない内に眠ってしまった。


これが私と沖田さんと出逢いだった。



.
< 9 / 98 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop