うちのおネコ様
ふと我に返り、右手をつかんだ彼とつかまれた私は後方の暗闇の中に目をやった。駅裏の駐輪場近くは、表通りに比べ店がない分、薄暗い。その分、月明かりが照らしてるので、その人影はぼんやりと見えるのだった。

背丈は175センチ以上はあるようで、風で髪の毛がさらっとなびくと、その人は男である事がわかった。


・・・誰?

聞きなれない声、見たことも無い男性。


しかし、なぜか私を「美子」とよんだ。そして私もなぜか嫌じゃなかった。


「ああ、こんばんは。すみません、うちの美子がお世話になりました。」

といって、彼は二人の前にすっかり姿を現した。



茶色くキレイにそまった髪は、とても美しかった。そして何より、人の良さそうな笑顔だった。整った20代前半の男は私の右手をつかむ男の子に向かって話しかけていた。


が次の瞬間、今度はその男性が私の肩をしっかり抱き寄せ、そのまま私の後ろに立って、私と同じ方向を向いて彼に言った。

「でも、子供がこんな遅くに出歩いちゃいけないよね。お父さんお母さん、心配してますよ。」


美子は突然の出来事に、すっかり地の姿で口をあけて驚いていた・・・

「この人は・・・だれ?」


さっきまで一言二言しか話していなかった黒髪の同年代の男の子と、全く見ず知らずの整った顔立ちの青年。


見知らぬ男性は自分の名前を知っていた。


整った彼の顔には、不自然な古傷があった。

なんだか自分が特別な立場にいるように思えてならない美子だった。


< 26 / 89 >

この作品をシェア

pagetop