うちのおネコ様
あ、す、すみません!と大樹君は深々とお辞儀をすると、急いでカラオケ店に向かった。


あれ?もしかしたら、さっきの黒髪君とは「男女」の仲になれるチャンスだったのかもしれない・・・?


しかし目の前に突然現れ、「美子」と叫び、怪しい雰囲気から助けてくれた(?)その「男」は、先ほどの黒髪くんよりも頼りがいがありそうで、なにより抱きしめられたままだったので。。。

美子はすっかり、ぽやーんとその男に目をうばわれていた。


男は美子に目をやると、先ほど以上のさわやかな笑顔で笑って見せた。

私ははっと我にかえり、
「あっ あの;」

と言うと


「ああ、突然すみませんでした。」

そう言って彼は彼女の肩から手を離し、後ずさりをした。

「突然現れて・・・しかもこんなタイミングで驚きましたよね。すみませんでした。」


男は、さっきの笑顔のままだ。
そして本物の「好青年」の彼は、美子に第一に謝った。


「いや、いいんです。私も突然腕をつかまれてびっくりしたし。ありがとうございました。」


私は赤面していた。多分今日3回目のユデダコ状態だ。


「あ、あの」
「はい?」

「なんで、私の名前を・・・」

しかも呼び捨てで・・・と思った瞬間、この人・・・もしかしてストーカー?と疑いの心が生まれてしまった!と同時に、さっきの黒髪君がとたんに恋しくなった。挙句にはカラオケ店に残ってる全員に助けを呼びに行きたいと思ってしまった・・・


しかし彼はまた、
「・・・すみません。ここでは・・・」

と謝るだけだった。

「すみませんって謝られても・・・」

うう・・・気持ち悪い。しかし、彼の姿形といい、澄んだ優しい瞳に、美子をすっぽりと抱き寄せてくれた身体といい。

今は気持ち悪いけど、こんな出会いをしていなかったら、多分「気持ち悪い」とは思わなかったと思う。


「・・・また、ちゃんとご挨拶しに来ますね」

そういって、彼は私に「夜道は危ないから気をつけて」と早く帰るように言い、私がチャリに乗って行くのを見守った後去ってった。



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