うちのおネコ様
「別に怒ってるわけじゃないの!」

そう言ってお風呂掃除グッツを手にした私は、彼が「猫」だった時の感覚で私に洗えと言った事を理解した。


・・・そうね。確かに私はいつもルディをお風呂に入れてるわ。それがお父さんだったりお母さんだったりする日もあるけど、大体は私かお父さんだったわね。

ルディは腕を組んで、お風呂場の横の洗面所の壁に頭をつけ、寄りかかって私の仕事振りを見ている。


私はゴシゴシと泡を立て掃除をしながら、お風呂の入り方を教えた。

「いい?シャンプーの後にリンスを使うの。その後にこのボディソープで身体を洗います。あ、洗う時はこのタオルを使って~・・・」

「ふぅ~ん。人間は色んなものを使って洗うんだねぇ」

ルディは興味を持って真剣に聞いていた。

「ルディはお風呂嫌いじゃないよね?」
動物のお風呂とは実は結構大変なものだ。ほとんどの子は濡れるのを嫌がるし、シャワーの音に怯えて恐ろしい位全力で逃げようとする子もいる。

「俺は別に平気だったよ。耳の周りとか水がかかるのは嫌だけど。いつもはパパか美子が洗ってくれたよね?パパの時はゴシゴシが痛いんだよ」

ルディは笑いながら答えた。

私もクスっと笑った。

「お風呂の記憶はあるんだ?」

「うーん。うんそうだね。感覚っていっても、例えば猫の時に「テレビの上にジャンプしたい!」とか、「もっと高い所にのぼりたい!」とか、そういうのが無くなったかなあ」


だからちゃんと覚えてる記憶もちゃんとあるのだという。
本当に『ある人物に対しての思い』は、無くなってしまったのかな。

「美子が洗うとさー、泡だらけで前が見えなくなるのが嫌だったな」

自分で言ってケラケラと笑っていた。私は「悪かったね!」といって、ひと通り洗い終えたお風呂をシャワーで流した・・・。


<1>うちのおネコ様!?編 終り



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