Turquoise Blue Ⅲ 〜好きな人の名前〜




…別に
腕つかまれたりとか
引っ張られてるとか


そういうムリヤリなコト
されてるワケじゃないから
”そのスキに逃げられるんじゃん…”って


そんなコトに気がついたのは
もう歩き始めて、かなりたった頃で


ヴォーカルがヘッドフォンを外して
ある建物の前に、立ち止まった時だった




「まだだいぶ、時間あるか ―――」






―――… 何てここを
説明したらいいんだろう…


渋谷に近いけど、まだきっと新宿
相変わらずの、雑居ビルの群れ


Jemuの辺りにちょっと似てるけど
コンビニとかは 全然なくて ―――


とても小さな、古い映画館みたいな…
でもポスターとかは、演劇の奴とかで


チケット売り場のガラス扉の小窓は
内側に、紅いカーテンが閉まってて


でも奥には、人の気配
オレンジ色の明かりももれてるし


”AS TIME GOES BY
第一回上映 20:00〜”


立て掛けてある厚紙にはマジックで
そんなコトが書かれてある ―――




「――― ほら」


「あっ…!」




手渡されたのは 暖かい紅茶


「… ありがとう」




ヴォーカルは、ニコッと笑って
またヘッドフォンしながらしゃがみ込み
来るまでと同じように、音楽聞いてる




特に…何も会話はなかったし


私も少し、寒かったから
紅茶は開けないで、両手で持ったまま




それからなんとなく
景色とかをぼーっと見ているうちに


マフラーにニット帽


昼間より、少し厚着めにした人たちが
周りにどんどん集まって来た




―――― 息 白い…





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