全てがキミだった
「あ、そだ」
公平はいきなり立ち上がり、子供たちの試合の横をすり抜けて、何かを手に取っていた。
軽快な走りでわたしの元まで戻ってくると、突然、『はい』と手を差し出してきた。
その手に握られていたのは、
「なにこれ、ボール?」
「そう、ボール」
公平は口元だけで微笑むと、わたしの手にしっかりとそのボールを握らせた。
「やるよ、それ」
「え、なんで?」
「思い出に取っとけよ」
「でも、ボールなくなったら出来なくなるじゃん、野球」
わたしが言うと、公平は問題ないというような表情でフっと笑った。