全てがキミだった


「あ、そだ」


公平はいきなり立ち上がり、子供たちの試合の横をすり抜けて、何かを手に取っていた。


軽快な走りでわたしの元まで戻ってくると、突然、『はい』と手を差し出してきた。


その手に握られていたのは、


「なにこれ、ボール?」

「そう、ボール」


公平は口元だけで微笑むと、わたしの手にしっかりとそのボールを握らせた。


「やるよ、それ」

「え、なんで?」

「思い出に取っとけよ」

「でも、ボールなくなったら出来なくなるじゃん、野球」


わたしが言うと、公平は問題ないというような表情でフっと笑った。




< 104 / 186 >

この作品をシェア

pagetop