全てがキミだった
「なんか、俺にもよくわかんねぇけど、これだけは、池内に持ってて欲しくて。
うまく言えないけど、俺にとって、池内はなんつーか、特別な感じ、だから」
わたしの心が、ぐらっと揺れた。
『特別だから』
それは、男と女の間に生まれる恋愛対象の『特別』とは違う。
友達としての、『特別』。
今のわたし達は、友達以上恋人未満の関係なのだろう。
あまりにも複雑な位置すぎて、涙さえも出なかった。
このボールを受け取ることは、なにかの儀式のように感じた。
わたし達のこの微妙な関係に終止符を打つための、儀式なんだ、これは――。
わたしは、固く目を閉じ、公平の手のひらに乗っている真っ黒なボールに手を伸ばした。