全てがキミだった
「別に付き合ってるわけじゃないよ」
噂の真実を確かめたくて、夕陽の力を借りて聞いてみた。
今考えると、なんてバカな事をしたんだと、笑えてくる。
片想いって、こんなにあっけなく終わってしまうんだなって、この時初めて思った。
ガタガタと騒音を立てて崩れていったわたしの想い。
荒い波の音のせいで、余計自分の感情の扱い方がわからなくなった。
今にも零れそうな表面張力ギリギリの感情は、ふとした瞬間に崩れてしまいそうだった。
「あいつ、夢を追っかけて東京に行ったんだ」
やっぱり、聞かなければよかった。
どこまで馬鹿なんだろう。
噂は噂のままにしておけば、楽だっただろうに。
本当に馬鹿だ。
ガードレールに両手を付いて海を眺める公平の顔を、わたしは見る事が出来なかった。
「美容師になりたいんだってさ、あいつ。
昔からの夢だったみたいだけど、実際いなくなると辛いよな」