全てがキミだった
第1章
「ただいま」
今日も玄関先で、疲れた声が聞こえた。
靴を脱ぐ音と、ガサガサとスーパーの袋の擦れる音がリビングまで響く。
疲れた、と、今にも消えそうな声で呟きリビングのドアを開けたお母さんの顔は、重力で下へ下へと筋肉が落ちていた。
だけども、きちんと化粧をした肌がなんとかそれをくい止めている。
「おかえり」
ソファーに寝転んだままのわたしは、顔だけお母さんに向けていつものやり取りを交わす。
「ご飯は?」
「まだ」
「梓は?」
「知らない。
部屋にいるんじゃないの?」
「そう」
ショルダーバッグをリビングの椅子に置くなり、両手に抱えていたスーパーの袋を持って、お母さんはキッチンへと向かった。