全てがキミだった


「わらび餅あるけど?」
 

視線を逸らすわたしに、お母さんは眉をあげた。


わたしはただ頷く。


「お茶、入れるわね」
 

クーラーの利きすぎたリビングは、少し肌寒かった。


ひんやりする床から足を気持ち浮かせて両足を摩る。
 

お茶を飲みながら、わらび餅を食べた。


「あのさ、」
 

爪楊枝をくわえながら伏し目がちに聞いた。


「お母さんが一番好きになった人って、お父さんなの?」
 

視界の隅に映るお母さんは、しかめっ面でさらりとこう言った。


「まさか」肩まですくめて。


「そんなわけないじゃない。だってあれよ?」
 

苦笑しながら言うお母さんの目の前で、今、トラックを運転中であろう池内家の大黒柱の姿を思い浮かべた。




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