全てがキミだった
「明日、綾が帰ってくるって言ってたわよ」
トントントンとリズムよく包丁を動かしながら、お母さんが声のトーンを上げて言った。
「うそ、そんなの聞いてないよ」
「あの子は連絡はマメだからね。
お母さんにだけ」
視線はまな板の上の野菜に向けながら、誇らしげな表情になる。
「休み取れたんだね」
「初めての連休みたいよ。ああいう仕事も大変だわね。人さまが休みの時が稼ぎ時だものね。
まぁ、お母さんもだけどさ」
「でも、せっかくの連休なんだし、向こうでゆっくりすればいいのに。
わざわざ帰ってこなくてもさ」
わたしが言うと、お母さんは包丁の手を止めて目を細めた。