全てがキミだった
公平は、本当にわたしの家を覚えていた。
わたしより少し前を歩く公平は、あの頃と同じように陽気に歩いていた。
一歩後ろをちょこまかと着いて来るわたしを、何度か振り返りながら。
その度に公平は微笑んでくれて、わたしもその微笑みに答える。
あの頃みたいに蒸し暑くて、蝉の居場所を探しながら道を歩く。
何年時間が経とうとも、わたし達の行動は全く変わっていなかった。
6年前にタイムスリップしたんじゃないかと、錯覚を起こすぐらいに。
毎日のように交わした『またな』という言葉を、23歳になった今、また公平と交わすことが出来た。
だけどその言葉は、あの頃よりも遥かに儚い言葉のように感じた。
今のわたし達には、『また』なんて言葉は使えない気さえしたから。
『また今度』、『また明日』
今のわたし達は、明日会えるのかさえもわからないのだから――。