全てがキミだった
「おまえさ、まだあれ持ってるか?」
鉄棒でくるりと回った公平が、わたしに聞いた。
ベンチからそれを見ていたわたしは、ただ静かに頷く。
「そっか。よかった」
またくるりと公平が回る。
「やっぱさ、おまえに渡しといて正解だったかも」
『どうして?』
答える代わりに、公平の目を見つめた。
「あれは俺のだけどさ、おまえのでもあるだろ?」
よいしょ、と声を出して鉄棒からおりた公平は、乱れた洋服を素早く直した。
わたしの座るベンチまで走ってくると、チェックのシャツの胸ポケットから、あるものを取り出した。
「──それ」
「懐かしくね?
ここに来る途中でコンビニで見つけてさ。
思わず買っちゃったよ」
『池内、早く来いよ』と、水道に走っていった公平が手招きをする。
公平のその目は、23歳の目ではない。
17歳の、まだまだ子供だった幼い頃の目をしていた。