感方恋薬-知られざる月の館-
「あ…あの、偶然…ですね」


あたしは、目一杯、いい子ちゃんを装って、おめめきらきら、彼に近付いて行った。


「やぁ、良く会いますね」


「…え、ええ、ホントですね」


うう、いかん、待ち伏せして話しかけたは良いが、話題が見つからん。


このままでは敗北してしまう。


戦わずして敗れるのは、あたしの心情に合わない。ここはせめて一太刀と思い乏しい話題を雑巾絞の如くに絞り出す。


「あ、あの、そう言えば、お名前、聞いてませんでした…よね」


あたしの言葉に彼は爽やかな笑顔をあたしに返してくる。うう…ま、眩しい。
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