感方恋薬-知られざる月の館-
あたしの横でソファーに座っている弟が、急に話しかけてきた。


「ん?どうしたとは?」


弟は、じっとあたしを見詰めると「いや、何となく雰囲気が何時もと違うから」とぼそぼそ呟く様に言うと、再びあたしの顔を見詰める。


うむ、カンだけは鋭い奴だ。


えぇえぇ有りましたとも人生最大のドラマがね。


瞬間失恋という感動的なドラマをあたしは体験してきたんだから。


あんたとは、一回り、いや二回り半位、人生の深みっていう奴に磨きをかけて来たんだ。


あんたみたいに子供用ビニールプール並みの深さしか無い奴と比べてれば、あたしは10メートル級飛び込み用プール位の深さが備わったんだ。


そして星に誓うんだ。


さらば宿敵(とも)よ…


あたしは目の前が、なんかちらちらするのに気が付く。原因は、弟があたしの目の前で、ひらひらと右手を振っていた。


あたしは、迷う事無く弟の後頭部を、ブン殴った。
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