感方恋薬-知られざる月の館-
「ふえ―――――ん」


幸の叫びにも似た鳴き声が周りに大きく響き渡る。


それを聞いた若様は、不敵に微笑みを浮かべると、あたし達の目の前から消えて無くなった。


あたしは、それと同時に幸に眼をやる。


幸は何が悲しいのか分からないが、ぺたんと座り込んで、べそべそと泣いている。


紀美代が駆け寄って彼を宥めようとしては居るが、どうにも収まる気配は無い。


「幸…」


あたしは、そう呟くと額に張り付けられたケーブルを引きはがしてよたよたと視聴覚室を後にして廊下を、ふらふらと歩き始めた。

         ★
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