感方恋薬-知られざる月の館-
学校から帰ってあたしは机に向って、うんうんと唸る羽目に成って居た。


そうなのだ、あたしは生まれてこのかた、ラブレターなる物を書いた記憶が無い。


いや、そんな物を書く破目に陥る状況すら想像した事が無かった。

これでも一端の文芸部、文章書くのは得意技って思われるかも知れないが、今のあたしには、そんな事は無理だって事を嫌と言う程痛感させられて居る。


「う~ん、困ったなぁ…」


――本心である。


「ほう、恋文か?」


あたしはずざっと部屋の隅に飛び退く。


「じ、爺…」


「ほっほっほ、随分と苦戦しておる様じゃのう」


「う、うっさいわね。良いじゃ無い、こんな物、書いた事が無いんだから」


「そうじゃろうのう、じゃが、忘れてはおらんか?おぬしには、以前渡した物があろうて」
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