感方恋薬-知られざる月の館-
あたしは何故か頬を赤らめて小さく頷いてしまった。


だって、良い男なんだもん…


        ★

「うそぉ…」


絶対そう言う、NASAの連中がこれを見たら腰抜かすだろうな。


あたし達が降り立った月面というのは、緑豊かで綺麗な花園に囲まれて神聖な雰囲気の大きな館が有る所謂、『天国』みたいな処だったからだ。


あたしは、その「うそぉ」の後に告げる言葉が見つからなかった。


あまりにも神聖で、心地よい静寂に包まれた館。


「さあ、どうぞ、お入りください」


若様は、小さくお辞儀すると、その完璧とも言える笑顔であたしを館の中に誘った。


館に続く長い一本道は、両脇を手入れの行き届いた花壇に囲まれ、この世の物とは思えない華やかさだった。あたしは、見る物全てが珍しく、きょろきょろと、あたりを見渡しながら館に向かって歩を進めていった。
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