感方恋薬-知られざる月の館-
「ああ、貴子さん、御休みの処すみませんが」

すまんと思うなら呼ぶなと言いたい処を、ぐっと堪えて、あたしをしつこく呼んだ主の姿を、ぼんやりと見詰めた。

声の感じで呼んでるのは幸だって事は察する事が出来た。


だから、さっきから無視を決め込んでいたのだが、あたしが、顔を上げて幸の顔を見ると、奴は、飼い主に呼ばれた子犬みたいな嬉しそうな表情であたしを見詰めると


「貴子さん、喜んでください、この前の幽霊探知機の改良版が完成しました」


と、言う幸の言葉にあたしは横っ跳びに飛びのくと、虐待を受ける子犬の様にふるふると震えながら教室の隅に蹲った。


「あ、貴子さん、今度は大丈夫です。ちょっとやそっとじゃ爆発したりしませんから」


そういう幸の手には携帯電話程の大きさの箱が握られているのに気が付いた。


「しかも、今度は失神する危険性もありません。失神する前に、激しいしびれを感じるので、生殺し状態で意識が無くなる事は有りません」


おい、幸、根本的な問題が、解決してないぞ!むしろ悪化してないか?
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