感方恋薬-知られざる月の館-
あたしは遠くで誰かに呼ばれた様な気がして、正面を向くと、そこには、則子の、どアップの顔が有った。


「何、どうしたのよ貴子」


「あ、う、ん、別に何でもない」


あたしは我にかえって微笑みを作ると、ハンバーガーにおもいっきりかぶり付いた。

         ★

御都合主義と笑わば笑え。


あたしは次の日、学校の校門で、その彼と、ばったり出くわす羽目になったので有った。


「あ、あの、お、おはよう、ございます」


「あぁ、昨日の子だよね。昨日はホントにお恥ずかしい処を見せてしまって」


「いえ、気にしてませんから」


「そうですか。じゃぁ…」


彼は、爽やかに右手を小さく上げてあたしに挨拶すると、校舎の方に向かってゆっくりと消えていった。


「お――っはよう貴子」


あたしは則子に、思いきり背中をどつかれて、ようやく自分に返る事が出来た。
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