感方恋薬-知られざる月の館-
じゃれつかんばかりの幸を、しっしっと、追い払うと、自分の夢の世界に浸りきった。


「ど…どうしたんですか?」


幸が、則子に尋ねる。則子は、幸に小さく肩をすくめてみせると、とっとと自分の席に歩いて行った。

         ★

当然の事ながら、その日の授業は、ずたぼろだった。

数学の時間に漢詩を読み上げ、地理の時間に三平方の定理について熱く語り物理の時間に国境紛争の愚かさについて熱弁を奮った。


うん、充実した一日であった。


「た、貴子さん…今日も実験の…」


幸の誘いを湧き出す高笑いで払拭すると、あたしは、学生鞄を携えて、ずかずかと教室の外に歩を進めた。
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